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信濃毎日新聞デジタル、掲載記事から引用
「トラックドライバーですら7割がスタッドレスの特性を理解していない」。那須自動車学校(栃木県那須塩原市)の安全講習専門機関「ドライビングアカデミー栃木」で主任教官を務める浅利裕悦さん(62)は、企業や団体の安全運転講習で「雨の日の路面では、スタッドレスの方がノーマルよりブレーキの効きが良いか?」とドライバーに質問している。すると約7割が「そう思う」と答えて間違えるという。
ドライビングアカデミー栃木は2022年11月、スタッドレスとノーマルタイヤのドライ路面とウエット路面におけるブレーキ制動距離の違いを実験した。使用したタイヤはスタッドレス、ノーマルとも7分山(タイヤの溝が新品から3割すり減った状態)で、いずれも普通乗用車に履かせて時速60キロの状態で急ブレーキを踏んだ。
その結果、ドライ路面の制動距離はノーマルが15.5メートルに対して、スタッドレスは17.5メートル。スタッドレスの方が、停車するまで1割ほど長い距離を要した。ウエット路面の制動距離は、さらに差が出た。ノーマルは19.5メートル、スタッドレスは25.0メートルで、スタッドレスの方が3割ほども長くなった。
また、ウエット路面のコーナリング実験では、ノーマルが時速40キロで進入して曲がれたコーナーでも、スタッドレスは曲がりきれずにセンターラインをはみ出してしまった。
記者(44)は長野市出身、在住で、12月~4月はスタッドレスを履いた車を運転している。こうした生活は20年続いているが、スタッドレスの特性は知らなかった。「学んだのに忘れたのかも」と考え、長野市内の自動車学校に確認したが、全国共通の教本では取り上げておらず、教習では教えていないと分かった。
タイヤ販売店の店頭や大手タイヤメーカーのホームページでは、スタッドレスの積雪路や凍結路におけるブレーキやコーナリングの性能を、従来品と数値で比較してアピールしている。しかし、ドライ路面やウエット路面におけるノーマルとの性能差は、数値で明確に示していない。ホームページの「Q&Aコーナー」で「夏用タイヤに比べて制動距離が長くなる傾向がある」(ブリヂストン)と表記している程度だ。
そこで、大手タイヤメーカーの3社(ブリヂストン、住友ゴム工業、横浜ゴム)に、スタッドレスとノーマルの制動距離に関するデータの開示を求めた。しかし、3社とも「開示できない」と答えた。ブリヂストンは「公式に公開できるデータを保有していない」。住友ゴム工業は「タイヤ公正取引協議会に届け出する要件に基づいたデータ整理をしていない」。横浜ゴムは「数値が独り歩きすると、スタッドレスの性能について消費者に誤解を与えかねない」と説明した。
各社ともドライ路面やウエット路面での安全な走行も考慮してスタッドレスを開発している。横浜ゴムは「ドライ路面とウエット路面ではスタッドレスの性能がノーマルより劣る傾向はあるものの、急ブレーキや急ハンドルなどの運転を除けば、一般市街地の走行で大きな心配をする必要はない」と説明。ブリヂストンは「オールシーズンでスタッドレスを履くことが危険とは考えていない」とした。ただ、ドライビングアカデミー栃木の実験では、制動距離などについて無視できない差が出ている。
スタッドレスの特性を知って運転するのと、知らずに運転するのとでは、スピードやブレーキのタイミングに大きな差が出る。より慎重に安全に運転し、制動距離が数センチ短くなるだけで救われる命がある。ドライビングアカデミー栃木の浅利さんは「スタッドレスの特性を大半のドライバーが知らないのは、タイヤメーカーの責任が大きい」と指摘している。(半田茂久)
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